元事務次官が息子を刺殺した事件
5月末から6月始めにかけていろんな事件が起こったが、川崎と練馬の殺傷事件は衝撃的だった。
練馬に住む元事務次官が息子を刺殺した事件は、川崎で起きた事件が、自分の息子の言動に対する彼の不安材料となっていた。そのことが、あたかもそうかも知れないとある程度予測されたように、犯人である元事務次官の口から実際に語られた。
殺人の罪を犯した人間が、事務次官経験者であり、外国大使も務めた人物というのは、やはり異例であろうし、私にとってはかなりの驚きだったが、多くの人にとってもそうだろう。
彼はこれまでのすべてを、常人ではなかなか到達しそうもない地位や名誉も、すべてをかなぐり捨てて大きな罪を犯したのだ。いや、犯罪に走らざるを得なかったと言うべきか。
人に言われるまでもなく、殺人が大罪であることを承知の上で、彼は罪を犯したに違いない。
これまで報道されたところによると、彼は、息子が川崎の事件のように、児童殺傷に向かう危険と、自己および妻への危害が及ぶ不安を感じていたという。
息子には、家庭内暴力と引きこもり、および精神障害があったと言われているが、その具体的な側面は明らかでない。引きこもりや精神障害と息子の言動との関連は安易に結びつけてはならないし、息子の言動は、まだまだ行動には至っていないものなのだ。
ただ、親が極端な不安状態にあったことだけは、今回のケースでは想像される。
彼は、息子が、隣接する学校の児童などに危害を及ぼすのを避けるために、もしくは、自分と妻に危害が及ぶのを避けるために大罪を犯してしまったのか。
この供述内容は、自己の罪をいくぶん正当化しているようにも聞こえるが、大筋では自分の感情と行為の原因となったものを正直に語ったものだろうと察する人が多いのではないか。
いずれににしても、親が事務次官ほどの経験者であろうとなかろうと、これと似たような心配を抱えている家庭が少なくないとすれば、これは今日の日本社会が注視しなければならない事件であることは確かだろう。