jjさんの日常生活

jjと呼ばれる人のありのままの日常生活をスケッチし、世の中の事象についての軽い感想を記す。

パリの「砧」

パリの「シテ ド ラ ミュージック」で演じられた能「砧」を最近TVで見た。

パリのシテ ド ラ ミュージックは、ノートルダム大聖堂があるあのシテ島にあるわけでない。パリの中心部からやや離れて、北北東あたりに位置するところにある。

菱田春草の作品に「砧」という日本画がある。これは能場面を、もちろん直接的に描いたわけではないが、日本の芸術文化の中で「砧」と言えば、やはり能の「砧」のコンテンツを前提に置いて作品を眺めることが要求される。

能の「砧」は、様々な能の演目の中でもかなりの名曲とされるが、世阿弥は「この能の味はい後の世に知る人もあるまじ」と述べたという。易しくはないのだ。

「夫の帰りを待ちわびて砧を打って心やりとしていた妻の死霊が、砧にうつって現れ、夫に恨みをのべる。秋の淋しさ、あわれさを中年女性に托して表現した名曲中の名曲。」(中森晶三『能のみどころ』)

妻のことを決して忘れていたわけではない夫とツレの夕霧との関連や、愛人かもしれぬ夕霧を介した夫と妻との関係性…

男女三人の心理劇として見ると、なるほどパリで上演されるに相応しい現代性があると言えるのかもしれない。その上さらに秋の寂しさそのものが妻の内面を映し出す鏡となり、妻の情念が砧の音となって響いてくるようで、なかなかに複雑なのだ。